手帳の使い方がわからなかった。
だってほら、予定の管理だったらスマホのアプリで十分だし、なんなら頭に入らないくらいの予定なんてないし。それでもなお、毎年手帳が売り出され始める10月のはじめから強迫観念に近い衝動に駆られる。
手帳を買わなければ。
その結果、日記帳代わりに使おうと1日1ページの分厚い手帳を毎年買うのだけれど、分厚い手帳はどれも1月始まりだから買ってから年始までそのまま、年が明けても書く習慣はつかず、気づけば手帳を開くことなくまた10月を迎える。そんなことを数年繰り返してしまった。
そうして今年も10月が訪れる。
そもそも、日記っていつ書いたらいいのだろう。記録のために1日の終わりに書いてみると、たいていが反省文になってしまう。「いいところだけ残せばいいのよ」なんてだれかに言われても、わたしがわたしにそれを許さないのだから。
そんなことを思っていた9月の終わり。今年も新しい手帳が発売されるころ、生活がうまくいかなくてもやもやする日が随分と続いていた。そのころにふと、知り合いが取り組んでいるモーニングページなるものをやってみよう、と思い立ったのだ。毎朝の30分でノート3ページ分をとにかく埋めていく習慣をモーニングページと呼ぶらしい。思っていることを文字にすることで、思考がクリアになるという。
とはいえ毎朝30分も割きたくないし(寝ていたいし)3ページも書くことはきっとない。だけど毎朝5分で手帳1ページくらいなら書ける気がする。そう思って始めてみることにした。1ヶ月やってみて、続いたら来年の手帳も買おう。だめなら、惰性で手帳を買うのはもうやめよう。そう決めた。
なんでもよかったのだ。今年の手帳の使い道が見つかって、強迫観念から逃れられて、もやもやが晴れるのなら。
なんでもよかった、と言うくせに次はボールペンに凝り始める。言い訳をつけて買いたかっただけなのだけど、何ヶ月もずっと気になっていたボールペンを買うことにした。ジェットストリームの0.28mmボールペン。ちょこちょこしたわたしの字には、細いボールペンがよく似合う。
1,000円もするボールペンなんて初めて買った。ずっとほしかったボールペン。理由なんて、なんでもよかったのだ。
10月が始まった朝、まっさらな手帳を開く。それまでの白いページがくすぐったかった。手帳の後半、10月の今日のページに0.28mmの細い線を乗せる。それからは細かいことは気にしない。文体も脈絡も、伝わるかどうかも、だれの目も気にすることなく、ただ頭の中を出力するだけ。
それだけなのに、何日か続けてみたら少し落ち着いて毎日を始められるようになった。こんがらがった頭から余計なものが出ていくから気持ちがすっとするし、気分が悪い自分を自覚できるようにもなったから。
それを何日か続けて、たまに書き忘れて。数日空いてもまた書いて、気づいたら11月になっていた。
1ヶ月続いたら来年の手帳を買おうと決めていたわたしは書店に向かい、来年の手帳を手に取る。強迫観念よりも、自分の意志のほうが強かった。手帳に書くことがこの1ヶ月楽しかったから。
購入したのは高橋書店のtorinco1。2020年に続き2年目。デイリーページが方眼なところが好き。健やかなるときも病めるときも、2021年のわたしの毎日を受け止めてほしい。
2020年のわたしの手帳は、終わりに差し掛かった今、大活躍している。買っておいてよかった。ありがとう、去年のわたし。
素敵な写真を表紙に入れたら、一層お気に入りになった。古性のちさんの、異国で撮っただろう写真。前に買ったチャイグラスについてきたもの。
使い道が見つからなかった手帳。ずっと使ってみたかった高価なボールペン。もやもやと晴れないわたし。
ほんの些細な困りごとを一度に解決したのがモーニングページだった。モーニングページは人生が変わるとも言われているらしい。わたしはちゃんとしたやり方で取り組んでいないから、それが本当かはわからない。
でも、手帳の使い方が見つからないという人がいたらわたしはおすすめするんだと思う。「お気に入りのボールペンといっしょに、モーニングページっていうのをはじめてみたらどう?」って。
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