DEAN&DELUCAのアップルサイダーを飲むと、あの秋のざらりとした気持ちがよみがえる。
初めて飲んだアップルサイダーは癒やしと呼ぶにはちょっと違っていた。甘くて、でもきゅっとした酸味があって、ごくごく飲めない。
甘くて酸っぱくてスパイスが効いた味。
アップルサイダーは現実の酸いも甘いもを知った上でどこかわたしに共感してくれているようにも思えた。
そんな味に初めて出会ったのは、仕事の方向性みたいなものを見失った数年前の秋。ランチをするには遅いけど少し休みたくてたまたま入ったDEAN&DELUCAでのこと。
それから毎年、長袖が定着してきた季節になるとDEAN&DELUCAのアップルサイダーを探してしまう。単純に味が気に入ったのもあるし、あの秋を忘れたくないとか今の自分に負けたくないとか、そういうざらりとした気持ちをなぜだか直視したくなる時期が来るのだ。
* * *
いくつか季節を重ねるうちに、あの秋も、DEAN&DELUCAのお店自体も遠くなってしまった。わたしが引っ越して都心から離れたのもあるし、気軽に東京に行こうと思えなくなった時節柄もある。
それでも「そろそろアップルサイダーの季節かなあ」とDEAN&DELUCAのサイトを開くとちょっと前のお知らせ欄に販売開始のニュースがあった。よかった。今年もアップルサイダーがある。
お知らせの詳細を見ていると、なんとおうちで楽しめるボトルが販売されていると知った。これなら家でもいつでもアップルサイダーが飲める。甘酸っぱい秋を迎えられるんだ。
しばらくして東京駅に行く機会があったので、DEAN&DELUCAでアップルサイダーのボトルを買ってきた。
ずしりと重たい瓶。口を開けるとリンゴの甘さとスパイスの香り。とくとくとコップに濃度の高い液体を注いでから熱々のお湯を注ぐ。6倍希釈と書いてあったけれど、それだと少し濃いかもしれない。マドラーでぐるりとコップの下をなぞってから、口に運ぶ。
そうそう、これこれ。この味。甘くて、酸っぱくて、スパイスの香りがしてあったかい。
1年ぶりの味を懐かしく思う一方で、家で飲むアップルサイダーはどこかやさしかった。ちょっと薄めで作っているせいなのだろうか。飲みながらざらりとした気持ちを思い出すことはなかった。代わりに感じるのは、包み込むようなやさしさ。
「まあまあ、そんな焦らんでもいいのよ」
そんなことを言われているような、何か許されているような味。不思議だ。同じ味を飲んでいるはずなのに。
あの秋が遠くなってしまったせいないのか、家という環境のせいないのか、その他のことなのか理由はよくわからないけれど。
それでも、きっとわたしは来年もアップルサイダーを飲みたくなる。ざらりとした気持ちも、許しを得た気持ちも、全部重ねて、きっと。
--
記事内の情報は最新のものではない場合があります。最新の情報は公式サイトや公式SNSなどでご確認をお願いいたします。